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平成13年度液体ヘリウム成果報告書

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(2)ESRグループ研究概要

導電性高分子

 2000年度のノーベル化学賞を受賞された白川英樹博士、ヒーガー博士、マクディアミッド博士の受賞内容で一躍有名になった導電性高分子は、「プラスチック?もちろん電気は流さないよね!」と言う今までの常識を覆しました.プラスチックにも電気が流れるのです。プラスチックですから、炭素とか、窒素などで出来ていて、その中をπ電子と呼ばれる変わり種が自由自在に動いています。電気の流し易さは、普通の電線の材料に使っている金属の「銅」と同じくらいの物も出来ています。空気中で安定な物が出来れば、色々な応用が可能になってきます.実際に、薄くてしなやか、且つ、明るく色の綺麗なシートテレビや太陽電池の研究が近い将来に実現しそうです.

導電性高分子のカラーディスプレー
セイコーエプソン下田氏提供  

 こう言った応用面のおもしろさもありますが、基礎的な面でも面白いことがあります。導電性の高分子は半導体なので、電気を流すためにはドーパントと呼ばれる、電子を引き抜いたり、つけ加えたりする物質をいれます。そうすると、ソリトンとかポーラロン、バイポーラロンと言った電子とスピンが分かれてしまった物とか、歪みの衣を着た粒子などが出来、電流を運ぶのです。ポリアセチレンは金属の「銅」と同じくらい良く電気を流すことも分かってきましたが、実はそのメカニズムは十分に解明されていません。
そこで、ちょっと頭をひねって上手い方法を使うと、導電性高分子の中で、ソリトンとかポーラロンの顔をした電気の宅配屋さんの配達経路を色々と探ることが出来るのです。それがESRの周波数依存性の研究です。色々な周波数で眺めてやると配達車の最高速度や小回りの利き具合が色々と見えてきます。こんな事が出来るのは、現状では世界中でもここだけ、と言うのが自慢の一つでもあります。最近は、工学部応用化学科との共同研究で、磁場中で合成したポリピロールの鎖が面内に非常に良く配向していることを電子スピン共鳴のシフトの異方性から明らかにすることに成功しました.
 更に、1万気圧程度の圧力を加えながらESRを測ることも行っています.導電性高分子以外の物質でもESRが得意とする磁気的な状態を調べることが出来、物質中の磁性の起源を探るのに有効に利用できます.今年度は、60個の炭素原子からなるサッカーボール型分子、C60で作られた、絶対温度16Kで強磁性になる TDAE-C60や50Kで反強磁性になるRbC60などに適用して、強磁性、反強磁性転移の原因を、実験からだけではなく、共同研究を通じ理論面からも解明を進めました.また、とても良い1次元系の電荷移動結晶の(DMe-DCNQI)2Li では、低温でDCNQI分子(ベンゼン環に2本手が生えた様な構造)が4枚づつ塊を作るが、数に半端が出るとスピンを持つソリトンとして結晶内を自由に動き回っていることが分かった.
 

 この様に、物質の温度を変えると色々と新しいことが見えてきます.そのためには液体ヘリウムがなくては始まらないのです.

(3) 研究成果

溝口憲治:
導電性高分子研究のその後の発展(白川英樹博士ノーベル化学賞受賞記念),
日本物理学会誌 56巻 8月号, 576-583 (2001).

T. Kawamoto, M. Tokumoto, H. Sakamoto and K. Mizoguchi
Theoretical Study of Pressure Effect on TDAE-C60
( TDAE-C60 の圧力効果の理論的研究)
J. Phys. Soc. Jpn. 70, 1892-5 (2001).


K. Mizoguchi:
Electronic states in conjugated polymers studied by electron spin resonance
(電子スピン共鳴による導電性高分子の電子状態)
Synth. Metals, 119, 35-38 (2001).


K. Mizoguchi, M. Machino, H. Sakamoto, T. Kawamoto, M. Tokumoto, A. Omerzu, and D. Mihailovic:
Pressure effect in TDAE-C60 ferromagnet : mechanism and polymerization
(TDAE-C60 強磁性体における圧力効果:強磁性発現機構と高分子化)
Phys. Rev. B 63, 140417(R)-1-4 (2001).


H. Sakamoto, S. Kobayashi, K. Mizoguchi, M. Kosaka and K. Tanigaki:
Electronic states in Rb1C60 studied by ESR under pressure
(圧力下の電子スピン共鳴法による Rb1C60 の電子状態)
Phys. Rev. B 62, R7691-4 (2000).


K. Mizoguchi:
ESR study in advanced materials with new parameters: Frequency and Pressure
(周波数と圧力を新規パラメーターとした電子スピン共鳴法による先端物質研究)
J. Korean Phys. Soc. 36, 360-65 (2000).


K. Mizoguchi, T. Takanashi, H. Sakamoto, Lj. Damjanovic and V. I. Srdanov:
Pressure effect on antiferromagnetic transition in alkali-electro-sodalite
(アルカリ・エレクトロ・ソーダライトの反強磁性転移における圧力効果)
Mol. Cryst. Liq. Cryst. 341, 467-472 (2000).


K. Mizoguchi, A. Sasano, H. Sakamoto, M. Kosaka, K. Tanigaki, T. Tanaka, T. Atake:
ESR and heat capacity studies of phase transition in Rb1C60
(電子スピン共鳴法と比熱によるRb1C60の相転移の研究)
Synth. Metals, 103, 2395-8 (1999).


K. Mizoguchi, N. Kachi, H. Sakamoto, K. Yoshioka, S. Masubuchi, S. Kazama:
ESR in polypyrrole with oxygen -Transport property in crystalline region-
(酸素中のポリピロールの電子スピン共鳴 -結晶領域の輸送特性-)
Synth. Metals, 101, 349-50 (1999).


K. Mizoguchia, K. Ichikawaa, H. Sakamotoa, Lj. Damjanovic, V.I. Srdanov:
Phase transition in alkali-electro-sodalite studied by ESR
(電子スピン共鳴法によるアルカリ・エレクトロ・ソーダライトの相転移)
Synth. Metals, 103, 1877 (1999).


H. Sakamoto, K. Mizoguchi, H. Ishii, T. Miyahara, S. Masubuchi, S. Kazama, T. Matsushita, A. Sekiyama, S. Suga:
Photoemission study of poly pyrrole and polyaniline
(ポリピロールとポリアニリンの光電子分光による研究)
Synth. Metals, 101, 479-80 (1999).


H. Sakamoto, N. Kachi, K. Mizoguchi, K. Yoshioka, S. Masubuchi, S. Kazama:
Origin of ESR linewidth for polypyrrole
(ポリピロールにおける電子スピン共鳴線幅の起源)
Synth. Metals, 101, 481 (1999).