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平成13年度年次報告抜粋 |
ミクロ物性研究室研究活動の概要主に電子スピン共鳴法による研究電子スピン共鳴(ESR)法を中心手段にして幾つかの興味ある物質について研究を進めている。通常は市販のX−バンド(10 GHz)やQ−バンド(36 GHz)スペクトロメーターが使われることが多い。これらの装置は感度が高く、有用であるが、本研究室では測定周波数を10〜24.000 MHz にわたって変えられる手製のスペクトロメーターを用い、パラメーターとして温度、周波数、圧力を変え、電子状態のユニークな情報を得ることを目的としている。 この種の研究が可能な研究グループは、単一の研究室としては世界的に見ても殆ど例がない。本研究手段の特徴を幾つかあげてみよう。低次元電子系では、スピン担体の微視的なダイナミクスの異方性を定量的に見積れ、多結晶試料にも適用できる非常にユニークな特徴がある。また、同一試料内の核スピンと電子スピンを同一周波数で観測すれば、試料内の反磁性に影響されずに電子スピン磁化率を測定できる。加圧下でのESR実験も可能で、格子定数を変え、電子間、電子格子間の相互作用を変調し、物性発現に寄与する相互作用を調べられる。以下に今年度行われた研究の概要を整理する。 ア)導電性高分子のポリピロール、ポリアルキルチオフェンについて、K-バンド(約20 GHz)ESRとNMRにより高精度のg-値の異方性の測定を進めた。ポリピロールは中央大学、東京医科大学との共同研究、ポリアルキルチオフェンはノルウエー工科大学との共同研究として進められた。導電性高分子は、現在までの膨大な研究結果を踏まえ、企業において応用研究のフェーズに入っている.しかし、基礎物性の理解には未だ不明な点を多く残している。例えば、ESRはその電子状態を知る上で多用されているが、その解釈の基礎は確立しているとは言い難い。g-値の異方性は、ESR信号の因って来る所をしる重要な手がかりを与えると考えられる。今回、ピロールでは電解合成する際に電流と垂直に磁場を適用して得られた高い配向性を持つ試料を調べることにより、ポリピロール本来のg-値の異方性が観測できるという画期的な結果を得た。更に、同一構造を持ち、窒素が硫黄に代わったポリアルキルチオフェンでも高い配向性を持つ試料について調べることが可能となったため、これらの系の電子状態の詳しい解析が現実的になってきた。まだ、最終結論は得られていないが、ESR信号の成因の解明に一歩近づけたと言えよう。 イ)フラーレンが1次元的に繋がった斜方晶Rb1C60ポリマー相の解析も継続して進めてきた。この系は常圧では50 Kで磁化率に異常が報告されている。圧力下ESRと共に、バークレーのZettlらの圧力下電気抵抗の結果を併せて解析を進めた結果、この系は、モット・ハバード型絶縁体・金属転移であることを示してきた。中性子散乱物性研究室との共同研究により加圧下の格子定数の測定を行い、Zettlらの加圧下電気抵抗の温度依存性の異常が圧力の温度依存性に起因するI-M-I転移である可能性を明らかにし、また、モット・ハバード転移が起こる格子定数を見積もることが出来た。(NEC、大阪市大との共同研究) ウ)C60を構成要素とする強磁性体、TDAE-C60のESRを昨年に引き続き調べた。この系は純粋な有機系の強磁性体としては最も高い転移温度16 Kを示すことから活発な研究が行われてきた。これまでの転移温度の静水圧依存性とコンシステントで、かつ、定量的にも合理的な転移温度を与える電総研の川本氏のモデルである、協力的ヤン・テラー相互作用で歪んだC60ボールの反強磁性的な軌道秩序が、この有機強磁性の起源だと主張してきた。最近、NMRのスペクトル解析から、C60ボールのヤン・テラー歪みも示され、ますます可能性が高まってきた。更に、TDAE分子の関与を調べるために1軸加圧の準備を進めている。(産総研との共同研究) エ)等方的な構造を持つが、やはり反強磁性相転移がからむ系として、アルカリ金属をドープしたアルカリ−電子−ソーダライトの研究も昨年度に引き続き進めた。これは、UCSBのスルダノフ博士との共同研究である。この系の特徴は、大変シンプルな構造と、その中には、中心に原子核イオンを持たない電子がトラップされ、それらの電子相関を調べる舞台を提供する。特に、圧力によりAl-O-Siの結合角が容易に変化するため、電子相関を変化させることが容易である。今年度は、NaとKをドープしたSESとKESの圧力下における磁化率を詳しく調べ、反強磁性転移温度とキュリーワイス温度の変化を測定した。解析の結果、アルカリイオンの種類の効果は、イオンサイズに起因するクーロン相互作用と格子ポテンシャルのバランスに影響し、SESはKESに4 GPaの化学圧が働いた状態にあること、また、磁性の圧力依存性がAlumino-Silicateケージの2種の結合窓のポテンシャル壁の高さの変化に起因する指数関数的なトンネル確率で良く理解できることを明らかにした。 オ)一次元的なDMe-DCNQIスタックとLiイオンのスタックから成る1/4-filledの一次元電子系結晶、(DMe-DCNQI)2Liは65 Kのスピンパイエルス(SP)基底状態を持つ。周波数可変ESRを適用して電子状態を調べた結果、キュリースピンがDCNQI分子4枚の周期で作るシングレットドメインの可動なスピンソリトンであり、TSPより十分低温ではポリアセチレンの中性ソリトンと同じフォノン駆動されること、TSP近くで異常に拡散速度が増大することを示した。その機構は現在検討中である。また、この系は、圧力により、主に1次元鎖方向の相互作用が変化するため、スピンパイエルス転移と圧力の関係を調べるのに理想的な系である。転移温度は、圧力を1.0、1.5 GPaと増加させるに従い、65 K、80 K、100 Kと上昇しており、理論との比較が興味深い。(理研との共同研究)
カ)交互積層型電荷移動錯体は中性相、イオン性相の二種の相が存在するという特徴を持ち、代表的物質としてTTF-CAが知られている。その仲間である(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)及び(BEDO-TTF)(Cl2TCNQ)は、二次元的相互作用の強いBEDT-TTF分子及びBEDO-TTF分子のために低温でのスピン-パイエルス転移が押さえられると予想される。しかし(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)では圧力下ESRにより電子スピン磁化率の温度依存性にピークが観測され、このピーク温度で中性-イオン性転移とスピン-パイエルス転移が同時に起きていると結論された。磁化率ピークはTTF-CAでは見られず、その理由は(BEDT-TTF)(ClMeTCNQ)の交換相互作用が弱くまた一次元性が低いため、転移点前後でのスピン-パイエルス状態のゆらぎが大きいためと思われる。一方、室温、常圧でイオン性相にいる(BEDO-TTF)(Cl2TCNQ)では、圧力により一次元性が強められ低温ではやはり予想に反してスピン−パイエルス転移が起きているように見える。(北大との共同研究)
研究業績論文
学会講演日本物理学会 第56回年次大会 2001年3月27日〜3月30日 (中央大学)
日本物理学会 2001年秋の分科会2001年9月17日〜9月20日(徳島文理大学)
国際会議The Fourth International Symposium on Crystalline Organic Metals (ISCOM2001), Superconductors and Ferromagnets, Rusutsu, Japan, September 10 - 14, 2001
学会誌等
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