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現代物理学の考え方(後半5)

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現代物理学の考え方(後半5)

● 導電性高分子(導電性プラスチック)は、有機化学の知識を生かすと、有機溶媒や水性溶媒に溶かすことが出来る。ELディスプレーを作成する際にインクジェットプリンターを利用する話が出てきたが、インクの代わりに溶媒に溶かした導電性高分子を入れて、通常のプリンターの様に印刷が出来る。溶媒が蒸発すると導電性高分子の発光素子になる。

● ポリアセチレンに電気伝導性を持たせる機構に付いて:ポリアセチレン自身は、4本の結合の手の内の2本を両側の炭素とのσ結合に使い、1本を水素とのσ結合に使います。余った1つはπ電子と呼ばれ、4つの炭素の結合の電子の中では最も高いエネルギー準位にいて、電気伝導性を支配しています。
 炭素原子1つに1つのπ電子がいますので、バンドはスピンの自由度を考えると半分しか詰まっていません。そのため、電場によって電子の平均運動量は電場の方向にズレて電流を生み出し金属になるはずです。
 しかし、ポリアセチレンは1次元に繋がった高分子なので、この金属の状態が不安定になる事がパイエルスによって示されています。2つの炭素が近寄って2重結合(σ結合+π結合)を作り原子の配列周期が2倍になるため、電子の物質波の波長が1重結合の場合の2倍(単位長さ当りの波の数、波数 k は1/2 倍)だけ長い時に各炭素原子による反射波によって定在波を作ってしまいます。それが電子が半分詰まったエネルギーの所に新たにエネルギーギャップを生んでしまい、金属から半導体に変わってしまうのです。これが、1次元の高分子にとって最も安定な電子の状態なのです。
 そこでELディスプレー等に利用する場合は、詰まったバンドから電子を引き抜いてくれるようなドーパントと呼ばれる負に帯電しやすい分子(I2、AsF5- 分子など)を少しだけ入れて「不純物半導体」にする必要があります。沢山入れると金属的性質にまで変える事も出来ます。銅と同じ程度まで電気伝導度を上げる事が出来ています。

● ほんの僅かだけ、例えば1つのドーパントを入れると、ドーパントに電子を取られて導電性高分子の中に出来た正孔は、単純にπ電子不在の状態では落ち着かず、その2重結合が壊れた歪みが広い範囲に広がって、最も全体のエネルギーが下がる状態に変わります。これは、導電性高分子が1次元であるため、容易に隣接炭素間の結合長を変化させる事が出来る事を利用しています。正に帯電して孤立した正孔の両側だけ1重結合にして歪ませるよりも広い範囲に渡って少しずつ結合長を調整した方が全体のエネルギーの上昇を抑えることが出来ます。この状態をソリトン型の「素励起」と呼んでいます。
 ポリアセチレンは2重結合と1重結合を入れ替えても、偶数個の炭素から出来ていればその構造の変化は単に左右に裏返すのと同じなので、電子系のエネルギーは全く変化しません。しかし、ポリアセチレン以外の高分子の場合は、一般的に2重結合と1重結合を入れ替えると全体のエネルギーが増加してしまいます。そのため、正孔が出来た際に、入れ替わった領域をなるべく狭くする必要が出てきます。この入れ替わった範囲は、正孔と元々の2重結合の相手であったが、孤立してしまった電子とで挟まれた「ポーラロン」と呼ばれる素励起になります。

● 有機ELテレビは、技術的にはほぼ完成しています。性能も高い事が確認されていますが、液晶テレビも進化と低価格化が起こり、民生用としては現在の価格競争に勝てる見込みが無いと判断され、市販されていません。工業用の大画面、高輝度、高画質が求められる様な分野でのみ販売がされています。

● ポリアセチレンは1次元鎖の高分子半導体です。ドーピングによって鎖内の電気伝導度は金属の様に高めることが出来ます。しかし、ポリアセチレン膜としては、鎖と鎖の間の電子の移動のしやすさが電気伝導性を決めています。合成直後のポリアセチレンでは、これらの鎖が乱雑に絡み合った構造を持ち、十分に高い電気伝導度が得られません。一方、ポリアセチレン膜を機械的に引張ると10倍以上に延伸することが出来ます。この時に、鎖と鎖が平行に配列する様になり、高い結晶性を得て伝導度が金属並みに高くなります。
 発光素子や太陽電池などの半導体としての応用では、この鎖の配列の乱れは本質的には影響しません。しかし、最大に流せる電流値は電気伝導性の高さによって決まりますので、使用目的に合わせた電気伝導性が求められます。
 鎖間を繋ぐ方法に「架橋」(鎖間に橋を渡すイメージ)がありますが、架橋反応は主に2重結合を外して sp3 結合にする事で架橋の手を生み出すため、π電子を失ってしまいます。そのため、3次元的に接続された構造が出来ても、通常は電気伝導性は得られません。導電性高分子が電気伝導性を保ったまま2次元、3次元に電子の通り道を広げるには、隣接する導電性高分子のπ電子間の電子の飛び移りが重要な役割をします。

● どんなプラスチック(物質)でも、高電圧を掛ければ「絶縁破壊」が起こり、大電流が破壊した道筋に沿って流れます。これは破壊なので、再現性(絶縁体に戻る事)は無く、破壊した道筋に沿って炭素(炭化:導電性プラスチック?鉛筆の芯の様なグラファイト)化して電流が流れる様になってしまいます。

● 有機ELディスプレーでは、インクジェットプリンターにより、3種の異なるエネルギーギャップを持つ導電性高分子の微小サイズの3原色素子をグループで作成します。その3原色の3つの素子に流す電流値は各素子に配列したトランジスターによって制御され、その結果得られた明度の異なる3原色は見る人の脳内で合成され任意の色として認識されます。