apartment

Date: 2016年9月13日
Time: 12:28:05 JST
Topic: 賃貸アパート経営事始め

定年退職後、限られた年金では、いつまでも今まで通りの生活は難しくなるのが目に見えている。徐々に退職金を取り崩していくことになろう。マイナス金利の昨今では預貯金の利子は高が知れている。株式投資も関心を持って調べてきたが、目一杯の時間を割いて「結局トントン」から抜け出すのは容易ではなさそうだ。中では利率の高いソフトバンクの劣後債にも投資をしているが、社債を購入してみると大企業といえどもどこまで安定して存続するのか気になる。つまづいたら一番に影響を被るのが劣後債であるし、その代償としての高金利なわけである。

そんな中で、ヒョンなことから不動産投資、特に賃貸アパート経営を調べる機会に巡り合った。

賃貸アパートのメリットは、入居者が確保できる限り定期的な収入が得られることにある。

実際に経営するには種々の要素を理解して進める必要があることは言うまでもない。70に近い輩が担保があるとはいえ、ローンを組んで購入するのはリスクが読みきれないので、手持ちの現金でスタートできる物件を探すことから始めた。その過程で学んできたことをここに整理してみたい。最終的には子供たちに相続することになるので、子供たちにもその際の資料として役に立てるような情報を盛り込んでいきたい。不動産貸付業を行うことになるので、税制に関する情報も不可欠になる。

賃貸アパートの立地について

アパート経営を長期に渡り安定して進めるには、需要が長期にわたり見込める立地で事業を開始することが不可欠になる。Webサイトを検索すれば、収益用中古アパートはいくらでも出てくる。その時に、重要なパラメーターとして見掛けの「想定利回り」がある。ローンを組んで中古アパートを購入する場合には特に重要な因子になる。次のような要素によって見掛けの利回りを高くしないと買い手がつかなくなると理解出来る。

  1. 経過築年数
  2. 建物のメンテナンスの遅れ
  3. 見込まれる賃貸需要の少なさ
  4. 交通の利便性の悪さ
  5. 土地の評価の低さ・借地権

 経過築年数については次の要素が関わってくる。多くの場合、賃貸アパートの建築費はローンが組まれ、月々の賃貸料で賄われる。木造であれば、22年間の減価償却期間が税法上で設定されている。税法上、毎年、建築費の1/22だけ建物の価値が減少しているので、その分だけ必要経費として賃貸料から引いた残りが収入になる。これによる所得税・住民税の減少はローンを賃貸料で返済するには鍵となる節税効果である。特に企業は総収入が多いので賃貸料に掛かる税率は非常に高く、最大、賃貸料の半分は税金として収めることになり、減価償却費控除は本質的に重要な因子になっている。そこで、多くの中古アパートは築後20年が一つの節目になり、減価償却による節税効果が無くなれば所有している価値が半減する。そこで、売りに出されるケースが多くなる。その際に、減価償却分は売却の際の必要経費としては認められないため、建物分の価値は低い評価で売りに出されることになり、見掛けの想定利回りが10%あるいはそれ以上と高くなる可能性が出てくる。反対に、築後年数が減価償却期間内の物件は販売価格が高くなる。なお、減価償却年限を過ぎた木造中古アパートを購入した場合にも新たに4年間の減価償却期間が法制上定められている。

 アパートは、通常、入居者の入れ替わりの際に室内のメンテナンスを行うことが多い。また、建物全体の価値を保つために、水周りや屋根、壁などのメンテナンスが必要になる。売却の際に、それまで外装などのメンテナンスを行っていない物件を購入する場合は、その直後にメンテナンスを実施することが望ましくなる。その費用分が販売価格から引かれているために、見掛けの利回りは高くなることが多い。

 「想定」利回りは、あくまで想定であり入居者がいなければ賃貸料は入らない。実際にはどの程度の平均入居率が見込めるか、又、管理経費などを考慮しなければ、実際の利回りにはならない。入居需要は 4.の交通の利便性と直結してくる面がある。人口が将来どのように変化するか、近隣に需要を生むような施設があるか、など多くの因子に左右される。単身者向けか、あるいは家族向けかによってもこれらの因子は影響を受ける。多少、交通の便を捨てても賃貸料が経済力に合っていれば需要は見込める可能性がある。駐車場の有無も影響する。

 また、土地の評価額も想定利回りに関係してくる。取分け土地価格の高い地域では、借地権付きのアパートの利回りは高くなるケースが多い。東京近辺と地方都市を比較すれば、土地の価格が似たような地域であってもアパートの賃貸料金には大きな差が生じる。その差は、中古アパートの販売価格の内、土地分よりも建物分の評価が賃貸料の比以上に高く売り出されるらしく、利回りとしては東京圏の方が比較的低くなるケースを良く見かける。

 別の要素として、将来の災害の可能性も気になってくる。日本中、災害の無い場所は無いと考えた方が良さそうであるが、自分が生存している範囲で災害が起こる可能性には考慮をすることができる。保険に加入していれば、アパートを新しくする絶好の機会と見ることも出来るかもしれないが。

私の場合はどうしたか?

私は、以上のような要素を勘案しつつ札幌市に木造中古アパートを購入した。

札幌市を選択したのは、今後の数十年、東京圏と似たような人口推移が見込まれている点と、交通の便の良い地域でも比較的価格が手頃な点、北海道大学を始めとした大規模な教育機関が市内にあること、災害の面で、関東圏は近い将来に大地震が予想される中、その期間内の札幌における大地震の確率が低そうなこと、などが挙げられる。関東圏の大地震の際に、自宅とアパートの両方が同時に被災することは避けられると期待している。

場所は、札幌市の地下鉄東西線の駅から10分以内の住宅街で、築後30年経過している。メンテナンスは良好なので、暫くは大きな改修は必要無いと予想している。北海道では、積雪があることが関係しているようで道幅が広い。建物の構造も特殊で、通常、平らな丘屋根で、積もった雪が落下して被害を生まないように縁が立上がっており、屋根の中央あたりに雨樋が一本設置されている。積雪のある冬季は縦樋に組み込まれたヒーターにより、屋根上の雪を徐々に溶かすらしい。その結果、通常は雪下ろしをする必要が無いとのことであった。降雪の影響を受けにくい交通機関として地下鉄に対する人々の信頼は高いようだ。現時点における想定利回りは11.6%であるが、築後年数とともに賃貸料も下げる傾向にあるため、将来的には下がってくると予想される。また、将来的には、水周りの改修や、壁面の塗装、屋根の塗装などまとまった改修費用が必要になる。

経常経費

アパートの賃料収入は必要な経費を賄う財源となる。必要な経常経費として、以下のようなものがある。

  1. 固定資産税・都市計画税
  2. 損害保険料
  3. 委託管理費
  4. 改修費等
  5. 所得税・住民税

固定資産税・都市計画税は、評価額の1.4%・0.3%で、この物件では賃料収入の3%程度になる。この物件の購入金額に対する評価額は、土地は1/5、建物は1/2程度であった。固定資産税の土地評価額は更にその1/2なので、約1/10である。具体的な税額は、8万円弱。

 損害保険料は、火災保険・地震保険、施設賠償保険、家賃補償保険など、いざの時の備えとなる。火災・地震保険に加え、施設賠償、家賃補償保険に加入し、年間7万円強。

 立地として札幌市を選択したので、不動産会社に委託管理をお願いしている。通常、賃貸収入の5%程度で、この物件では、1室あたり2千円、計1万円。

 改修費等は入居者の出入りの際の部屋のリフォームなどがある。水周りの急なトラブルなども考えられる。将来的には大きなものとして外装のメンテナンスや、屋根の塗装もある。

 不動産収入以外の収入に依存するが、所得税・住民税は大きな割合を占める可能性がある。課税対象所得の合計が330万円を超えると所得税20%、住民税10%の合計30%になる。仮に、200万円の賃料収入があれば、60万円の所得・住民税を納めることになるが、実際には、課税対象所得は必要経費分を引き落とすので、これよりは税金は少ない。

必要経費として認定されるのは以下のような項目がある。

  1. 固定資産税・都市計画税
  2. 損害保険料
  3. 委託管理費
  4. 減価償却費
  5. 改修費等
  6. 青色申告特別控除
  7. 専従者給与
  8. ローンの返済利子の建物相当分

減価償却年限内であれば、減価償却費が最も大きな必要経費になる。木造の減価償却期間の22年を経過した減価償却済みの木造中古アパートでも、購入時点から4年間の減価償却が可能である。なお対象は、購入金額のうち建物分のみである。売買契約で建物分と明記されている金額で、明記されていない場合は、通常4割が建物分と認定される。この割合を増やせば当面の節税効果は大きいが、売却する際には既償却分は不動産取得時の経費から引かれ必要経費として認定されないので、不動産譲渡税の対象になる。5年以内であれば30%+9%、5年以上経過していれば15%+5%の所得税+住民税が課せられる。もちろん、取得時、売却時の手数料、登録免許税などは必要経費と認定される。

 改修費等はまだ経験していない。経常的な修繕は必要経費として認定されるが、現状の施設の価値をより高める効果を含む場合には設備費と判断され、資産にはなっても必要経費として全額が控除されることはない。この辺りの線引きは具体的になった段階で調べようと思っている。

 通常の確定申告は白色申告で、それ以外に、複式簿記の記帳を求められる青色申告がある。不動産所得、事業所得、山林所得がある場合に選択できる。税務署に事業開始届、青色申告承認申請書などを提出し、貸借対照表と損益計算書を作成する必要が有る。安価で利用出来るエクセルを用いた複式簿記のアプリケーションも公開されているので、使いながら複式簿記を学ぶことも可能である。青色申告を行う場合は、65万円までの青色申告特別控除を受けることができる(白色申告の場合は10万円まで)。種々の控除額を賃料収入から差し引いた残額が65万円に満たない場合には、その額が控除額になる。中古アパートの購入当初は減価償却費や不動産仲介手数料、不動産取得税、登録免許税などが控除されるので、青色申告特別控除は賃料収入が大きい場合に効果を持ってくる。

 専従者控除は、専従出来る他の職を持たない15歳以上の家族が、その事業の専従者となる場合に支払うことが出来る給与。その分は賃料収入から差し引かれるので、税金はかからない。しかし、この物件のように、不動産会社に委託管理を依頼している場合はそれ相応の業務があるとは認定されないようである。

 この物件ではローンを組んでいないが、ローンを組んだ場合はその建物分のローンの金利は控除対象となる。

実際の利回りは?

現状では、全室に入居していただいているが、今後、何時空室が出来るかわからない。しかし、ローンは組んでいないので、赤字になる心配は無い。当面は、減価償却費と青色申告特別控除で税額は抑えられるようだ。改修費は今後需要が出てくると思うが、改修費を含めないで利回りを勘定すると、10%近くになる。しかし、1室開く毎に2%近く下がることになる。最終的な利回りは、アパートの売却後で無いと定まらない。メンテナンスをしながら使い潰した挙句は、土地の価値として購入金額の70%程度を期待(現状で)できる。10年後であれば毎年 –3%になることを考慮すると、平均で5%程度にはなりそうだ。もっと長期間元気でいてくれるようにメンテナンスをしたいとは思っているが。

相続するときは?

さて、購入したアパートは、元気な限りは月々に10万を超す収入を出してくれる。我々の子供の世代は、年金制度は更に厳しい状況が予想される。そのような中で、月々10万を超すアパートの賃料収入は貴重な年金源になる。このアパートを相続する場合にはどの程度の評価額になるのか知っておく価値はあろう。評価は以下の要素に依存する。

  1. 路線価
  2. 借地権割合(A:90%, B:80%, C:70%, D:60%, E:50%, F:40%, G:30%)
  3. 固定資産評価額
  4. 借家権割合(通常、30%)

土地の評価額は路線価を使って求める。Webで検索すると、各地の路線価を閲覧することができる。当物件では「70E」と表記されており、1㎡あたりの「千円」で表されている。E は借地権割合で50%を表すようだ。「70千円x敷地面積」で評価額が計算でき、アパートの場合は賃貸しているため、所有者の自由に出来ない割合の借地権割合をかけて求める。

 建物の評価額は固定資産税の評価額に借家権割合の30%(東京、北海道等)をかけて算出する。この物件の場合は、購入金額の10数%。これらを加えると、相続時の評価額は、購入価格の半額弱と計算される。相続後も現役で働いてくれれば、毎月10万円強の生活援助をしてくれると期待している。相続時精算課税制度を利用して贈与すれば、2,500万円までは贈与税はかからない。2,500万円を超えた分には一律20%の贈与税がかかる。相続時に相続税の特別控除額(3,000万円+600万円x相続人数)を超える場合は相続時に贈与時に支払った贈与税も含めて相続税が計算される。