HOME はしけ激突し橋崩落、車十数台が川に転落 米オクラホマ Dpt. Phys. TMU

     

米オクラホマ州東部を流れるアーカンソー川に架かる橋で、2002年5月26日午前8時前(日本時間同日午後10時前)、石油運搬用のはしけ(台船)が橋脚に激突、約150メートルにわたって橋が崩落し、乗用車やトレーラーなど十数台が川に転落した。  はしけが橋脚に衝突した原因は不明だが、当時、現場付近は大雨で川は急流になっていた。(朝日新聞社のasahi.com平成14年5月27日より引用)

疑問:船が橋桁に衝突したくらいで、橋は壊れてしまうものですか?

 この疑問について考えるために、下の図のような力が鉄筋コンクリートの橋桁に加わった場合に、どの程度の力で壊れるか検討してみる.コンクリートの曲げ強度は、約50 [kN/m2] 程度であり、鉄筋が入るとほぼ10倍になるので、鉄筋コンクリートの曲げ強度を sb=500 [kN/m2](添字 b は bending の頭文字)として考えよう.

 
図1:橋桁を横に寝かせて考える.△の部分が支点で、川底と橋の接続部分に相当.力Fは、艀の衝突による.

sb=F l/bh2 [N/m2] (何故h2に比例するのか考えてみよう。記号エルがアイに見えますがご容赦を)

として曲げ強度が与えられるので、逆に、与えられたsb, l, b, h の時に要する破壊力は、

F=sbbh2/l [N]、 

で得られる.衝突した橋桁のサイズは正確には不明だが、上の写真から見積もってみよう.橋桁は円柱か角柱か判別できないが、破壊部分の長さ150 m という条件から、h=b=4 mの角柱と仮定しよう.橋桁の長さは、水深が不明なので水面上の長さ約10 mの倍として、l =20 mと仮定する.そうすると、必要な破壊力 F は、

F=sbbh2/l=5x105x43/20=1.6x106 [N] 〜1.6x105 [kg重]、 

即ち、160 [ton重]の力が加わると破壊してもおかしくないことが分かる.さて、力の単位、ニュートン [N=kg x m/s2] と重さ [kg重]との関係を考えておこう.質量 m kg の物体に地球の引力が働き、その物体には、F=mg [kgx(m/s2)=N] の力が働く.ここで、g〜9.8 [m/s2] は重力加速度と呼ばれる量で、地球の引力が原因である.従って、力 F [N] から、重さとしてはどの程度なのかを知るには、上の式の計算でやったように、力を g〜9.8 [m/s2] (おおよそ10 で良い)で割ってやれば良いことになる.

 上の写真から、艀の長さは約120 m、巾約40 m、深さはたぶん、数m程度と推測される.石油の比重は0.8程度.しかし、急流に乗っていたとすると、港へ向かっていたので、石油は積んでいなかった可能性が高い(代わりに別のものを積んでいるかもしれない:喫水が浅すぎると不安定になるため).さて、急流の流れが仮に毎秒 5 mの速度だとすると、艀が最低限どの位の質量を持っていたと考えられるか考えよう.この時に、運動方程式としては、dP/dt=Fである.ここで、艀の質量と速さを掛けたP=mv は(艀の)運動量と呼ばれ、運動の激しさを表す量である.△t としては、橋桁が「く」の字型に1m 折れ曲がる間、一定の力が働くと仮定すると、運動方程式はF=P/tと書けて、(速度が 5 [m/s] から1m の距離でゼロになるため)△t は0.4 秒になるので、F=艀の質量[kg]x5[m/s]/0.4 [s]〜艀の重さ [kg重]x10 倍以上に相当する力が掛かる.160 [ton重]の力で壊れる可能性があることから、艀の重さとしては、高々 16 [ton重] 有ればよいことになる.艀の質量は、排水量から予測できるので、喫水線が50cmの時は何tonになるか考えて比較して見てほしい.軽く見積もっても、1000 ton だとすると、10,000 [ton重] の力が掛かることになり、とても耐えられないことがわかる.船の先端部分が潰れてくれて、△t が長くなれば働く力は減少するのだが.

さて、この橋は、よく見ると、幅の広い橋桁部分と、細い柱状の部分とが交互に並んでいる.幅の広い部分は、橋の巾程度有るので、約30 mになる(上図の高さhに相当).もし、橋桁が全てこの巾広の橋桁で出来ていたらどうだろうか?bの厚みは同じだとすると、強度はhが広くなった分だけ丈夫になる.強度は、この巾の2乗に比例するから、(30/4)2〜50倍になる、即ち、160x50=8000 [ton重] に増加する.船の速度や、船の頑丈さに依存するが、船の先端が潰れてくれれば、もしかすると橋は多少壊れはしても落ちないですんだかもしれない.設計者も、まさか艀が衝突してくるとは思っていなかったのだろうが、全くあり得ないことではないところが今回の不幸につながっている.


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# 29/5/02

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