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疑問:スカイダイビングをする砂時計はどうなるか?・・・進む?遅れる?

測定条件

 約4千メートルのセスナから、インストラクターと共に嵐のメンバーが、腕に固定した砂時計と共にダイブする。約1分弱パラシュートなしで降下し、その後、パラシュートを開く。降下は、5分の砂時計が落ちきる前に着地するために8の字を描きながら降りた。パラシュートを開くときに大きなショックがあり、8の字のカーブは結構きつかったようだ。
 このような設定で、地上の砂時計と同時に反転し、比較したところ、5分計が約4分半で落ちきった。その理由を考えよう。

砂の落ちる速さは何で決まる?

 砂時計の砂が落ちるには、砂時計の穴に対して、砂にのみ力が働く必要があります。 地上で静止しているときには、砂時計のガラス容器には正味の力は働かず(重力と、床からの力(物理では「抗力」と呼びます)がバランスして)静止しています。ガラス容器に接している砂についても、ガラス容器から働く抗力のために静止を続けます。
 従って、落下穴の直上の砂にだけ重力が有効に働き落下します。

 このことは、砂時計が一定の速度で動いているときでも変わりません。(速度が時間と共に変化しないような、一定の速度で運動し続ける場合を慣性系(静止も含みます)と呼び、静止する場合と全く同じ運動をします。このことを、「ガリレオの相対性原理」と呼びます)
 一般的に、重力などの「力」が働く場所では、物体は加速されて落ちていきますので、「一定の速度で動く」と言うことは、重力を打ち消す何らかのブレーキが(床の上の砂時計に働く、床からの抗力と同様に)砂時計に働いていなければ起こり得ないことです。今の場合は、空気摩擦によるブレーキです。
 砂には直接は空気摩擦が働きませんので、砂はガラス容器に押し付けられて始めてブレーキを受け、容器と同じ速度で動くわけです。でも、穴の上の砂は、そのまま重力で加速されて落ちていきます。 動き出してしばらく経ったエレベーター内と全く同じです。砂時計は正常に動くはずです。

 スカイダイビングでは、飛行機から飛び出して数秒すると、空気による慣性抵抗と重力が釣り合って、時速、約100km前後でほぼ一定の速度になります(終端速度と呼ぶ)。一定速度で落下する、この状況なら、上に書いたように、砂時計は正確に動きます。

 しかし実際には、空気抵抗は空気の濃度(密度ρ)に比例するので、落下するにつれて、富士山頂の薄い空気濃度から地表の濃い濃度まで徐々に上昇します。それにつれて、落下速度(終端速度)が徐々に遅くなります。即ち、弱くブレーキを踏んだ状態になります。
 この時の砂には、ブレーキがかかった事による、重力以外の、余計な力を感じます(見かけの力、とか、慣性力と呼ばれる力)。

 まず最初に空気濃度上昇によるブレーキがダイブする人にかかり、その人が砂時計を支えているので、ガラス容器の速度にも同じブレーキがかかります。
 でも、砂にはやはり直接ブレーキは働かないので、ガラス容器に押し付けられることによりブレーキを受けますが、穴の上の砂は同じ運動を続けるのに、ガラス容器の速度が遅くなる(マイナスの加速度を受ける)分だけ、逆に前に力を受けた、と感じることになります。

 これは、ブレーキをかけた車内の人と同じです、人はそれまでの一定速度で前方に運動していますが、車体の速度はブレーキによって段々遅くなるため、人は車に押し付けられます:即ち、車体に対して前方に力を受けていると感じます。実際には、車体が人の方に寄ってくるのですが、人はそうは感じずに、自分が前方に力を受けたように感じるのです。そして、実際に感じたとおりに動いてしまうのです・・・ 
 これは、カーブを曲がる時に、車体の壁に押しつける力が働くように感じることと全く同じです。方向は異なるけれど。
 車外から見ていれば、人は一定の速度で進んでいるのに車の速度が遅くなっている、と言うだけなのですが。

 これを、衝突のような過度なブレーキを仮想すると、中の人は、フロントガラスを突き破って飛び出すほどの力が働く(あくまで見かけの力ですが)・・・ 
 パラシュートを開いた瞬間の、砂時計の砂に類似しています。この時も、瞬間ですが、砂時計を進ませる効果があるはずです。

 砂時計を進める他の要素として、

まとめ

 スカイダイビング中の砂時計の進みや遅れ具合を決めているのは、砂時計が加速されている(正味の「力」が働いている)時間と、減速されている時間との兼ね合いが効きそうです。
 終端速度に達するまでの時間は、ほんの数秒程度です。この間は全く進みません。砂からみると、ガラス容器は砂と同じ速さで動きますので、砂には力が働いていない「無重力状態」に相当します。しかし、すぐに空気摩擦の効果が現れて、一定の速度(終端速度)で落下を始め、その後のブレーキが砂時計に見かけの力を働かせるために、徐々に進むことになります。

 2時間番組の録画には、その倍以上の時間がかかることを経験しました。「小学生」にも分かるようにこなれた表現で説明するのはなかなか技のいることだと感じます。準備も必要です。その場で発言すると、つい、そのことを忘れてしまい、冷や汗をかきました・・・


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# 10/01/06

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