ESR Group におけるDNAの研究内容
DNAは、生命体の遺伝情報を蓄えている2重ラセン構造を持つ高分子です.燐酸(PO4-)とデオキシリボース糖(炭素4つと酸素の5員環の両側にOHとCH2OHが付き、1ユニットを構成)が交互に繋がって高分子骨格を形成しています.その周りには、燐酸の負電荷を中性化するためのNa+イオンが配位しています(実際には、複数の水分子に囲まれている).デオキシリボース糖にはベースと呼ばれる4つの平面状分子、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の内の1つが付いています.これらの4つのベースから選んだ3つのベースからなるグループが遺伝情報のアルファベットを構成し、そのシーケンスが遺伝情報を司っています.(Introduction to DNA Structure(英語))
2重ラセンを構成するには、各ベースの相手には特定の決まったベースが来る必要があります.即ち、A には T が、G には C のみが結合することが出来るのです.その結合は、水素結合(O-H...N、N-H...N、(O-H...OはDNAには含まれない))からなっており、周囲の条件次第で2重ラセンを組んだり、1本1本、バラバラになったりします.必要なときには2本が離れて、ベースのユニークな組み合わせしか出来ない性質(A-Tは2本の水素結合、G-Cは3本の水素結合)を利用して新たなDNAを容易に複製出来るのです.
現在の科学においては、DNAのベースのシーケンスを自由自在に合成することが出来ます.DNAはナノメートルサイズを有していますので、ナノメートルサイズで鎖を自由自在に(原理的には)組み合わせて回路を作ることが出来るのです.即ち、ナノエレクトロニクスの素材としても有望ではないか、と考えられ多くの研究が成されてきています.(勿論、基礎物理学としても興味ある素材です.)ところで、DNAは電気を流すのでしょうか?この問に答えるべく、ナノテクノロジーの発展により、DNAを1組だけ、或は一塊りだけ取り出し、その電気伝導度を調べる多くの研究がNatureやScience, Physical Review Letters誌などに報告されています.
さて、その結果はどうでしょうか?
実は、様々な結果が報告されています.ここに並べた文献の内、赤字は、ドープしていないDNAが金属であるとしている論文、青字は、半導体、黒字は絶縁体の結論を出した論文です.光学測定で、長距離の電子伝導が起こっているとする論文がこの前に報告されています.しかし、最近の理論的解釈などからは、燐酸からNaイオンへの電子励起だとされていますので、半導体、或は絶縁体と言う結論が優勢のように見えます.
そこで、ESRグループの目指すのは、ESR法によって、スピンを通じ、DNAがどの様な電子状態にあるかを探ることです.やはり、現在までの結果からは、ドープしていない、自然のDNAは絶縁体と考えるべき様です.現在、DNAにイオンをドープして、DNAに電荷を運ぶキャリアーを導入できないか、或は、ドープによってどの様な状態が実現しているのかなどを調べています.
- H.-W. Fink and C. Schenenberger, "Electrical conduction through DNA molecules," Nature 398 (april), 407-10 (1999).
- D. Porath, A. Bezryadin, Simon de Vries et al., "Direct measurement of electrical transport through DNA molecules," Nature 403 (10 February), 635-38 (2000).
- P. Tran, B. Alavi, and G Gruner, "Charge transport along the \lambda-DNA double Helix," Phys. Rev. Lett. 85 (7), 1564-7 (2000).
- A.Y. Kasumov, M. Kociak, S. Gueron et al., "Proximity-induced superconductivity in DNA," Science 291 (12 January), 280-2 (2001).
- A. Rakitin, P. Aich, C. Papadopoulos et al., "Metallic Conduction through Engineered DNA: DNA nanoelectronic building blocks," Physical Review Letters 86 (16), 3670-73 (2001).
- K.-H. Yoo, D.H. Ha, J.-O. Lee et al., "Electrical conduction through poly(dA)-poly(dT) and poly(dG)-poly(dC) DNA molecules," Phys. Rev. Lett. 87 (19), 198102 (2001).
- Y. Zhang, R.H. Austin, J. Kraeft et al., "Insulating behavior of l-DNA on the micron scale," Physical Review Letters 89 (19), 198102-1-4 (2002).
- Z. Kutnjak, C. Filipic, R. Podgornik et al., "Electrical conduction in native deoxyribonucleic acid: Hole hopping transfer mechanism?," Physical Review Letters 90 (9), 098101-1-4 (2003).
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